童話「技術的負債」

【第1話】
21世紀の前半のあるところに一人の青年がいました。
青年はプロジェクトとやらに所属しています。
プロジェクトのボスは、半年に一度10万円をおさめるよう青年に命令しました。

10万円。なんという金額でしょう。
青年が1ヶ月間、普通に働いて得られるお金は約1万円。
6ヶ月働いても6万円にしかなりません。

それでもなんとか頑張るぞ、と
毎月1.5倍も働きました。9万円も稼ぎました。
青年は純粋だったのです。

しかしどうしても1万円たりません。
納期の日に10万円の現生さえあればいい、
そう気づいた青年はやむなく銀行から1万円の借金をしました。

普通に働いて稼げる6万円。
残業して頑張って稼いだ3万円。
そして借金した1万円。
計10万円を青年はプロジェクトにおさめました。

 

【第2話】
10万円を納めたところ青年は再びプロジェクトのボスから次の命令を言われました。
前回同様、半年で10万円をおさめてくれ、と。

よし今度も頑張るぞと意気込む中、銀行から電話がありました。
いわく、借金1万円の利子は1万円です。これを6ヶ月後に払ってください。

全部で11万円を払う必要が出てきました。
青年は前回以上に頑張りました。最初の3ヶ月で2倍の頑張り。

なんと6万円も稼いだのです。
しかし無理は長くは続きません。


半年間の1.5倍の労働、3ヶ月の2倍の労働、青年の体はぼろぼろでした。
残りの3ヶ月、毎月1万円の仕事量に戻して働くのがやっとでした。
前半頑張った6万円、後半の3万円。あわせて9万円。

銀行は非情にも約束通り1万円を持って行きました(それが仕事ですからね)
残金8万円。プロジェクトに納める金額がまだ2万円足りません。

思考する事すら疲れてしまった青年はまた銀行から2万円借金をしました。
前回とあわせて3万円の借金。
それでも10万円の現生は用意して、なんとかプロジェクトにおさめる事は成功しました。

 

【第3話】
青年はもう限界でした。次のプロジェクトに入る前に旅に出ました。音信不通です。
そうなると困るのはプロジェクトのボスです。
彼は新たな人材を見つけました。あなたです。

プロジェクトのボスは慈悲深く、前回は半年で10万円だったが、
君はまだ仕事も慣れていないだろうから2割引きの8万円で良いよ、と言いました。

6ヶ月で8万円。ちょっと厳しいけど、1ヶ月1万円以上の働きをするのは
この業界では良くある事なので、あなたは了承しました。

そして次の日、あなたのもとに銀行から電話がかかってきました。
あなたの前任者が残して行った負債があります。3万円です。
利子として半年後までに3万円追加で納めてくださいね、
もちろん負債3万円とあわせて6万円返してくれても構いませんよ、と。

なんと言う事でしょう。あわせて14万円の返済。
それでも新しい仕事に燃えていたあなたは毎月2倍の働きをして12万円を稼ぎました。
借金の利子である3万円と負債1万円を返し、プロジェクトに8万円を納めました。

 

【第4話】
プロジェクトのボスはあなたが8万円を納めた事を知り、次は前回同様10万円で、と言いました。
あなたは負債がある事、そしてそれを返すための余裕を作ってほしいとお願いしましたが、無視されてしまいました。
世の中は甘くないのです。
銀行も前回同様2万円の利子を納めてほしいと言いました。
世の中は甘くないのです。

あなたは前回同様2倍の力で頑張りました。
前回の半年に加えて今回の半年も2倍。1人で2馬力の働きです。
体は限界でしたが、なんとかまた12万円を稼げました。

賢いあなたは考えました。
ここで2万円分の利子を返すのは容易だ。しかしそれではまた次の依頼が厳しくなる。
そう思ったあなたは銀行へ4万円支払って負債をゼロにしました。

残ったお金は8万円。プロジェクトにおさめましたがボスは納得しませんでした。
2倍も働いているのにこれしかおさめられないのはどういう事だと怒りました。
あなたは負債の事を説明しました。長期的には納品ペースを遅めたほうがよいのだと。

しかし、相手には通じません。
ボスが読めないプログラムという文書のことなど彼には関係ないのです。

あなたは結果を残せなかったので解雇されました。

技術的負債を消した事は評価されません。

体はぼろぼろでしたし、これで良かったかもしれませんね。

 

【第5話】
プロジェクトのボスは新たな人を雇う予定です。
前回の残っている分の2万円を足した12万円をおさめてもらう予定です。

次の人がまた多く働いて無理矢理12万円納めるのでしょうか。

あるいはあなたがせっかく消した技術的負債をまた新たに作るのでしょうか。

いずれにせよ、あなたにはもう関係ない事です。

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